塗装

塗装のことを調べようとインターネットで検索したり、塗装会社やリフォーム会社との話をしたりする中で「塗膜」という言葉を聞くことがあるかと思います。塗膜とは、外壁や屋根に塗った塗料が乾燥して固まって膜状になったものを指します。

塗膜には建物を保護し、建物の劣化速度を速める水(雨)・紫外線・熱によるダメージから家を守る働きがあり、この塗膜の働きが建物を風雨から守っているのです。

しかし、塗膜の性能をちゃんと発揮させるには、ただ塗れば良いわけではありません。正しい施工方法で正しい塗料の量を使用することで初めて塗膜本来の機能を発揮します。

この記事では、塗膜の役割や塗膜厚がしっかりついているかを確認する基準、塗膜不良による不具合事例の紹介など、塗装工事をする前に知っておくべき塗膜の知識をご紹介します。

1.塗膜とは

 1-1.塗膜とは何か

冒頭でもお伝えしたとおり、塗膜とは、塗料を塗ってそれが固まることで作られる塗料の膜のことを指します。外壁や屋根、雨樋などの外装部分は日々雨水、太陽の紫外線を受け劣化しています。雨水が建物の内部に浸入すると劣化スピードが加速します。これを防ぐための手段の一つとして建物に塗装を行い、塗膜による建物の保護を行う方法があります。

塗膜を形成するために使用する「塗料」とは、顔料・樹脂・水もしくは溶剤・添加剤を加えて形成されている液状のもので、これを下地(屋根や外壁そのもの)に塗布し、乾燥させることで成膜させます。

塗料の原料塗膜になるもの顔料塗料の色彩などを形づくる成分で、無機顔料と有機顔料の2種類がある。
樹脂塗膜の素になる成分で、この樹脂の特徴により耐候性や柔軟性、耐水性等の塗膜性能が決まる。
添加剤塗料の性能を向上させる補助薬品で、代表的なものは防カビ剤やつや消し剤などが挙げられる。
塗膜にならないもの水もしくは溶剤樹脂を溶解したり塗料の粘度を調整したりするため使用され、代表的なものは、シンナーや水などが挙げられる。これが揮発しなければ塗膜にならない。

1-2.塗膜の役割

塗膜が建物にとってどのような役割を担っているかをご存知でしょうか?

塗膜の役割はズバリ“コーティング(保護)”です。屋根や外壁にはセメントが使用されているものが多いのですが、そのセメントには水を吸収する性質があるため、何もコーティング(保護)していない状態であると、雨水を吸収します。吸収した水は気温差により膨張したり、伸縮したりするためやがてセメント部分が割れたり、爆裂したりします。

さらに劣化が進むと建物内部に水が入り、建物全体を劣化させていくのです。

劣化

外壁や、屋根は家全体を守ってくれているものですが、その外壁材や屋根材自体を守ってくれるのが塗膜です。塗料を塗ることで、外壁材や屋根材自体のひび割れや欠落、反りなどを防ぎ、建物を長く保たせる働きをしてくれているのです。

それでは建物を守るための外壁や屋根のコーティング材の役目を担う塗膜は、どうやって作ればいいのでしょうか?次に、塗膜ができるまでの流れと良い塗膜と悪い塗膜の見分け方についてご紹介したいと思います。

1-3.塗膜ができるまで

塗装時に塗料が規定より薄く塗られた場合、塗膜が薄くなり本来の性能を発揮できず、また再びひび割れてしまう、剥がれてしまうこともよく起こります。

塗装は色が付けば良いわけではなく、正しい工程で、かつ、正しい量の塗料(塗布量)を、正しい施工方法で作ることが塗装工事を成功させる上でとても重要となります。

では、正しい工程と正しい塗布量、正しい施工方法とはどのようなものなのかをご紹介したいと思います。

塗装の工程

塗膜を形成するには、大きく3つの工程により形成されます。素地と中塗り・上塗り塗料の密着を良くするための下塗り、基材を保護したり色をつけたりするための中塗り(上塗り1回目ともいう)、上塗りという流れで塗膜を形成していきます。

ですが、塗料によって下塗りが不要であったり、素地(外壁や屋根本体のこと)が痛みすぎている場合はこれ以上の回数を塗装しなければならなくなったりもしますので使用する塗料の仕様書(説明書)をしっかり確認する必要があります。

基準塗布量

基準塗布量

基準塗布量とは、正しい性能を発揮するための塗膜を形成するために、一定の面積に塗布しなければならない塗料の量のことです。これは塗料によって様々で、パンフレットに記載されています。紙とのりをイメージするとわかりやすいかと思うのですが、紙と紙を貼り合わせるときのりを極薄く伸ばして紙同士を貼り合わせ数日ではがれてしまった経験はないでしょうか?正しい量を塗らないと完全に紙と紙がくっつきません。塗料も同じで、正しい塗布量を守らなければ、本来の性能が発揮されず、不具合を発生させてしまいます。

塗膜の違いが歴然となったプロと素人で対決した記事もぜひご覧ください。

【プロの塗装職人 VS 素人】塗装対決でわかった技術の違いとは?

正しい施工方法

塗膜を作るためにもう一つ大切なことがあります。それは決められた乾燥時間(インターバル)をしっかり守ることです。初めの方で紹介したように、塗料は塗膜になるものと塗膜にならないものの2種類に分類され、塗膜にならないものが揮発して固形化します。塗料がしっかり固まることができなかった場合、塗料が膨れてしまったり、早期に色あせしてしまうことにつながります。そのため、メーカーが各塗料に対し、乾燥時間(温度・湿度にも基準含む)の基準を設けているため、その基準に沿って工事を行う必要があります。

これら2つを守り、しっかりとした塗膜をつくることこそが、質の高い工事につながるのです。次章で上記2つが守られず、不具合を起こしてしまったケースを3つ紹介いたします。

 

2.しっかりとした塗膜が作れなかった際に起こる不具合

一章でお伝えしたとおり、しっかりとした塗膜を作るためには、正しい工程、正しい塗布量、正しい施工方法の3つを守り施工をしなければなりません。それらが守られない場合、これから紹介するような不具合が起こる可能が高まります。

 2-1.耐久年数10年なのに2年でチョーキング

チョーキングとは壁を触ると手に白い粉がつく現象のことで、塗料の顔料が表にむき出しの状態のことを言います。この現象が起こる原因は、塗料に含まれている樹脂が紫外線、雨、熱などの影響により劣化していき、どんどんやせていくことで、色などをつける役割の顔料と呼ばれるものがむき出しになってしまい、そこが表面で粉化してしまっています。

本来使わなければいけない量の塗料を使用していなかった場合、このような劣化のスピードが早く起こってしまうことがあります。

2-2.塗装して3年で退色

退色は、塗りたての頃よりも色が薄く、色あせて落ちてしまう現象のことです。原因は日光の紫外線で樹脂に守られた顔料がむき出しとなり、色素が紫外線によってだめになってしまうことにあります。チョーキング同様、基準塗布量を守っていなければこのような現象が早くに発生してしまうこともあります。

2-3.上塗り材の塗膜のひび割れ

塗布量がしっかり守られていなかったり、決められた乾燥工程と乾燥時間、温度などを守らずに次の工程に進んでしまうことがあると、写真のように塗膜自体がひび割れてしまったり、亀裂が生じたり、形成不良を起こしたりしてしまいます。

このような工事にならないように注意したいものですが、施工するのは業者なので消費者でできることは、基準を守った施工ができる業者を選ぶことなります。質の高い施工をしてくれる業者の選び方を次の章にてご紹介いたします。

 

3.基準塗布量を守る業者を選ぶ3つのポイント

塗装工事において業者選びはとても大切です。塗装工事は大きい買い物でありながら、契約時は未完成のものを購入することになるので、自分自身でしっかりしてくれる会社かどうかを見極めていく必要があるからです。工事を絶対成功させる鍵は、塗料がしっかり仕様書どおりに塗料を塗布できているかどうかです。ここでは、塗装工事で最も大切な「質の高い施工をしてくれる業者の選び方をご紹介いたします。

3-1.材料・施工費一式ではなく、施工費と塗料の缶数を表記しているか

 

見積書をもらったら材料と施工費が分けて詳細を記入されているか、材料が一式でなく必要な塗料量(kg)を満たすだけの塗料の入荷予定缶数で記入されているかどうかを確認しましょう。

見積書には金額明細が書かれてありますが、材料と施工費を一式で出されるケースがありますが、その場合、見積りの段階では塗料が何缶必要かが書かれていないので、正しい塗布量が確保してもらえるのかがわかりません。

そのため、契約前に自分の家の塗布面積(窓や玄関などの開口部を除いた塗装面の面積)には塗料が何缶必要かを明確にすることをおすすめします。

基準塗布量・・・メーカーが指定した1㎡あたりに塗らなければいけない塗料の量
塗布面積・・・窓や玄関などの開口部を除いた塗装面の面積

3-2.工程表を提示し無理なスケジュールになっていないか


工程表とは、工事の始まりから終わるまでに、いつどんな工事をするのかをスケジュールに落とした表のことです。各社形式は異なりますが、足場組み立て、高圧洗浄、屋根下塗り、中塗り、上塗りなど各工程の日程が記入されています。このように工事中のスケジュールをしっかり説明し提示してくれる会社へ依頼をしましょう。そして提示してもらったら、塗装工事の日数の根拠を説明してもらってください。

塗料には基準となる施工間隔があります。

これが守られないと、塗膜が完全に乾燥せず、塗膜が膨れてしまったり、はがれてしまったりする可能性にもつながってしまいます。しっかり施工間隔が考慮された施工スケジュールになっているのか、確認することをおすすめします。

3-3.検品、空缶写真の提示があるか

契約時の塗料の入荷缶数、実際の納品缶数、使用済みの空缶数を確認しましょう。契約時に依頼した塗料缶がすべて使い切られていれば、判断しやすいです。手間ではありますが、高い買い物ですので、しっかり確認することをお勧めします。

溶剤か水性など、塗料によって塗料が乾燥し・硬化するスピードは異なりますが、この施工間隔(塗り重ね乾燥時間、インターバル)も仕様どおりに塗布しなければしっかりとした塗膜をつくることはできません。

工程内・・・同じ塗料を2回塗り重ねる場合、置くべき間のこと。
工程間・・・異なる塗料を塗り重ねる場合に、置くべき間のこと。
最終養生・・・粘着テープによるマスキングを行っても問題ない程度に塗料の乾燥が進むまでの時間を指す。

【補足1:自分でできる!塗装工事に失敗しないためのチェックリスト】

□資格や専門知識のある住宅診断のプロが診断をしている
□屋根に上がり、屋根裏を見て漏水状況を診断してくれる
□必要に応じて塗装以外の方法も提案されている
□一式の見積もりではなく工事内容が詳細に記載されている
□塗装面積の根拠・算出方法が明確である
□メーカーが定めた規定塗布量に基づいて塗料の缶数が計算されている
□見積書において塗料代と工事代を分けて明記されている
□工事の工程表の提示がある
□工事の安全管理(ヘルメット・法律に準じた足場の設置)への説明が事前にある
□長期アフターフォローを実施するための体制が整っている

【補足2:必要な塗料の缶数の計算方法】

塗布量は各塗料のパンフレットに記載されている施工仕様(下図左面)を見れば簡単に計算はできます。


参考資料:アステックペイント シリコンフレックスⅡパンフレット(表・裏表紙)

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<条件>
外壁塗布面積:180㎡
使用塗料:シリコンフレックスⅡ(アステックペイント)
塗布量:0.25~0.35kg/㎡
荷姿:16kg

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この塗料は塗布量:0.25~0.35kg/㎡ですので、1缶の16kg÷0.25=64㎡ ~ 16kg÷0.35=45.7㎡となり、

1缶あたり45.7~64.0㎡塗ることが出来る塗料と言えます。

この範囲で必要な缶数を計算すると、施工するために必要な塗料の缶数は以下の通りです。

最低塗布量で施工する場合 180㎡÷45.7㎡=3.93=4缶
中間塗布量で施工する場合 180㎡÷52.85㎡=3.4缶
最高塗布量で施工する場合 180㎡÷60.0㎡=3.0缶

この物件では3缶~4缶の塗料缶をこの現場で使い切らないといけないという計算です。ぜひ参考にしてみてください。

 

まとめ

今回は、塗装工事を行うにあたって非常に重要となる塗膜の基礎知識と工事に失敗しないためのポイントをご紹介しました。塗膜は外壁や屋根そのものを雨や紫外線から守るの役割を担うもので、家を長持ちさせるために非常に重要なものです。

しかし、塗膜は、基準を満たした量の塗料が塗られていなければ、塗膜自体が長持ちをせず、せっかくかけた費用が無駄になってしまうこともあるのです。塗装工事は高いお買い物となりますので、決して業者に任せきりにせず、しっかり基礎知識を身につけて、良い業者を見つけていきましょう。