あなたのご自宅は、どのような屋根になっているかをご存知でしょうか?

現代の住宅建築においては、スレート瓦(カラーベスト、コロニアルとも言います)という建材が非常に人気があり、多く使われています。
もし、ご自宅の屋根がスレート瓦で、塗装工事をした方、もしくはこれからしようという方がいらしたら、必ず知っておいて頂きたいことがあります。

それは、「縁切り」という作業です。もしスレート瓦の塗装をする時にこの作業を行わないと大変なことになってしまうのです。

この記事では、塗装工事の縁切りについて解説していきます。縁切りとは、スレート瓦の塗装をする際、排水をするために必須の作業です。

スレート瓦の塗装を行なう場合は、必ず知って頂きたい内容ですので、「塗装したばかりだけど大丈夫か心配・・・」という方や、「これから塗装を検討している」という方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

1.塗装工事における縁切りとは

1ー1.縁切りとは

「縁切り」とは、塗装をして塗料が乾燥した後に、瓦の隙間を塞いてしまわないよう、水の通り道を確保することを指します。

スレート瓦葺き屋根の構造

上の図は、スレート瓦の屋根を横から見た断面図です。
構造としては、厚さが約12mmの野地板という下地材に防水シートが設置され、その上から厚さ約4.5mmのスレート瓦が釘で固定されています。

スレート瓦葺き屋根の構造

雨が降ると、雨水がスレート瓦の突きつけから浸入し、上下の重なる部分から流れていく構造になっています。(青い矢印)これが新築後の通常の状態です。
ところが、塗装を行なった後に「縁切り」を行わないと、乾燥した塗料の膜が瓦の重なった部分を塞いでしまい、水が外に流れていかなくなってしまうのです。
そのため、水が流れていくよう、通り道を作る必要があるのです。

塗料メーカーのカタログです。塗装の時には「こういったルールを守って工事をしてください」という内容が書かれた、仕様があります。
(料理でいうとレシピのようなものです。)つまり、それだけ重要な作業であるということです。

1ー2.縁切りを行わないとどうなるのか

では次に、縁切りを行わないとどうなるのか、引き続き屋根の構造を見ながら解説していきます。

スレート瓦葺き屋根の構造

瓦の隙間が塗膜で塞がれ、行き場をなくしてしまった雨水は、内部に溜まっていきます。
(赤い矢印)スレート瓦裏側に溜まった雨水は釘を伝って野地板やその下の天井裏へと渡って、木材の劣化や雨漏りを引き起こしてしまいます。

木材の劣化

具体的にどのような状態になるのか、動画で見てみましょう。

お分かりいただけたでしょうか?水がボタボタと流れ出てきています。
想像するだけでゾッとしますね。縁切りを行わないと、このように屋根内部に水が入り込むのです。

 

縁切りのまとめ

・縁切りとは、上下の瓦と瓦の隙間を塗料で塞がないように、水の通り道を確保すること
スレート瓦の塗装工事をする時は必ず行なう

 

2.縁切りの未実施によるトラブルを避けるためには

屋根塗装において縁切りはとても重要な作業だということがお分かりいただけたかと思います。では、縁切りをしっかり行なってもらい、トラブルを避けるためにはどうすればよいのか、お伝えしていきます。

2ー1.既に塗装工事をしている人は

有資格者

既に塗装工事を行なっていて、「縁切りがしっかりされているかどうか心配だ。」という方は、まずは屋根の状態を確認してみましょう。
しかし、屋根に上るのには危険が伴いますので、工事をした塗装会社に見てもらうようお願いすることをオススメします。
ただ、塗装会社の対応に不安が残るようであれば、別の会社に見てもらって、第三者の立場からの意見をもらうのも良いでしょう。
その際は、建築士や、外装劣化診断士といった、有資格者に見てもらうようにしましょう。
大抵は、診断までなら無料で行なってくれますので活用してみてください。

縁切り
※出典:株式会社セイム

ただ、もし縁切りされていないことが分かった場合、サービスで縁切り作業を実施してくれるかというと、そうではありません。
塗装が終わってから時間が経ち、完全に塗料が乾燥した状態で縁切りを行おうとする場合、「皮すき」という道具を使って瓦の重なり合った部分を切っていくのですが、その際、周辺の塗料までバリバリと剥がれてきてしまいます。
塗膜を剥がしてから再塗装をし、縁切りをするという方法もありますが、塗った直後に塗膜を全て剥がし切ることは難しく、あまり現実的な選択とは言えません。

 

皮すき
皮すき

塗装工事が終わった後に、縁切りされていないことが発覚した場合、再度行なってもらうことは難しいです。
既に雨水が溜まっている可能性もありますので、雨漏りが発生していないかを定期的にチェックしてもらうようにした方がよいでしょう。
ただ、放置しても状態が良くなることはないため、雨漏りを防ぐためには、上から新たな屋根材を被せる「カバー工法」を行なうことも検討してみてください。

2ー2.これから塗装工事を検討する人は

2ー1で、もし塗装工事後に縁切りされていないことが分かった場合、費用も掛かり大変な目に遭ってしまうということをお伝えさせていただきました。
これから塗装工事を検討される方は、そのような悲しい事にならないためにも、契約をする前に縁切りの工程があるかどうかを、見積書や工事のスケジュール表である工程表を一緒に見ながら、必ず担当者に確認しましょう。

工事提案書
また、それだけではなく、しっかり縁切りを行なったかを確認するために、工事後には屋根の写真を載せた報告書を提出してもらうようにしてください。

工事完了報告書
縁切りでのトラブル、お家の雨漏りを避けるためには

契約前縁切りの作業があるかどうかを必ず確認する
・工事後に縁切りを行なったことを証明する写真付きの報告書を出してもらう

 

3.縁切りの作業について

では、実際の縁切りがどのように行われるのかを解説していきます。

3ー1.勾配が大きい屋根や特殊なスレート瓦に対して行なう縁切り

縁切りの作業では、カッターや皮スキなどの道具を使用します。
これで、上下の瓦と瓦が重なり合っている箇所を塞いでいる塗料の膜を切って隙間を作ります。
1枚1枚行なう地味な作業になりますが、これがとても重要なのです。

縁切り

しかし、時間と手間を要するため、この従来の方法は通常のスレート瓦に対しては現在あまり行われていません。
ただ、勾配が大きい屋根のお家や波型スレートなどの特殊な形状をしたスレート瓦に対しては、この方法で縁切りを行ないます。
理由は、後述するタスペーサーという道具の設置が難しいためです。

特殊な形状をしたスレート瓦
※出典:チヨダウーテ株式会社

従来の方法の縁切りは、作業をするのに2人がかりで丸一日掛かってしまうこともあります。
作業費としては4~6万円くらい掛かります。
そこで、その時間が掛かるという問題を解決するためにタスペーサーという道具を用いた方法があります。

3ー2.一般的なスレート瓦に対して行なう、タスペーサーを使った縁切り

タスペーサー タスペーサー

タスペーサーとは、スレート瓦の重なり部分に差し込んで排水性を確保するために使用する縁切り部材のことです。
作業時間や費用を抑えられることから、一般的なスレート瓦に対してはこのタスペーサー設置による縁切りが主流となっています。
屋根幅(約910mm)に対して突きつけの下 左右15cmくらいの箇所に差し込み、1㎡あたり約10個使用します。
これを差し込むことによって、瓦の重なり部分に隙間が確保され、従来のカッターや皮すきを使った「縁切り」を行なう必要はなくなります。
タスペーサーの価格は、1箱500個入りで7~8,000円くらいしますので、50㎡程の屋根で、1箱全て使い切るといったイメージです。
それに設置作業の費用も加わり、およそ25,000円~30,000円程が相場です。

カッターや皮すきなどの道具を用いた縁切りは、施工した職人の腕によって仕上がりが変わることもありますが、タスペーサーは差し込むだけですので、より確実な施工が可能になり時間の短縮にも繋がります。(50㎡程の屋根なら約1時間で終了します。)
従来の縁切りで丸一日掛かっていた時間を他の作業に充てる事ができるので、工期短縮にも繋がるのです。

 

まとめ

塗装において、縁切りがいかに重要か、ということがお分かり頂けたかと思います。

塗装工事は決して安い買い物ではありません。約10年に一度の、大切なお家のためのメンテナンスですので、手間を惜しまず、工事の前と後にしっかりと内容を説明してくれる信頼のおける会社を選ぶことが重要です。

縁切りは、スレート瓦の塗装工事では必須の作業
契約前、工事前、工事後には必ず、縁切りが実施されることを確認する