コンクリートにて造られた家にお住まいの方、「外壁のコンクリートが剥がれ落ちてしまっている」「コンクリートがひび割れしている」という症状は現れていませんか?コンクリート建造物で見られるそのような劣化症状はコンクリートの『中性化』と呼ばれる現象により発生するものです。
コンクリートの中性化は、アルカリ性であるコンクリートが雨や紫外線に曝されることにより、コンクリート内部のカルシウム化合物が大気中の二酸化炭素と反応し、徐々にアルカリ性を失うことです。
コンクリートの中性化は進行するとコンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートがひび割れや剥落を起こしてしまいます。さらに、そのひび割れや剥落した箇所から雨水が浸入することで、内部の劣化が進行し、建物全体に広がってしまうという危険性もあり、見過ごしてはいけない劣化症状であると言えます。
とはいえ、このコンクリートの中性化という現象が進行して、「ひび割れや剥落が起きているけどどうしたら良いの?」という方や「中性化を未然に防ぐ対処法はなにかあるの?」と疑問に思われている方は多いのではないでしょうか?
そこで、今回の記事ではコンクリート造の家にお住まいの方に向けて「中性化」が発生する理由や中性化が起きた際の外壁の見た目、対処法に至るまで詳しくご紹介します。
目次
1.中性化の基礎知識について
1-1.中性化とはどんな現象?
中性化という現象は、アルカリ性であるコンクリートが雨や紫外線に曝されることにより、コンクリート内部のカルシウム化合物が大気中の二酸化炭素と反応し、徐々にアルカリ性を失っていく現象をいいます。
中性化が進行するとコンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートがひび割れや剥落を起こす危険性が高くなってしまいます。さらに、そのひび割れや剥落した箇所から雨水が浸入すると、内部の劣化は益々進行してしまい、建物全体に広がってしまう危険性もあります。
【なぜ中性化が発生してしまうのか?】
コンクリートの中性化はなぜ進行してしまうのでしょうか?ズバリ『コンクリート外壁に塗られている塗料の膜(塗膜)が経年劣化してしまう』ということが一番大きな要因です。新築時にはコンクリートには塗料が塗られた状態で建てられています。この塗料の効果により紫外線や雨水などの建物の劣化要因から建物を守る役割を果たします。
しかし、経年とともに紫外線や雨水にさらされ続けることで塗料の膜は劣化してしまい、塗料の効果が徐々に失われてしまいます。そうなるとコンクリート内部に水や二酸化炭素が浸入しやすい状態となるため、中性化が発生しやすくなるのです。
1-2.中性化が進行しているコンクリートの見た目
中性化が進行している時のコンクリートの様子をご紹介します。次に紹介する劣化症状がご自宅に見受けられる場合、中性化が進行している可能性が高いため注意が必要です。
劣化症状名 | 画像 | 詳細 |
---|---|---|
ひび割れ | 中性化が進行し、鉄筋が膨張することで発生する初期の症状です。 | |
コンクリート下地の剥離 | ひび割れが進行すると、次に塗膜の剥落が発生します。 | |
コンクリートの剥落 | 中性化の進行が深刻化するとコンクリート自体が剥がれ落ちる剥落と呼ばれる劣化症状が発生します。
この状態まで進行すると建物の劣化が著しく早くなるので、注意が必要です。 |
中性化が進行すると以上のような劣化症状が発生する危険性があります。ただ、この3つの劣化症状は、中性化によって引き起こされていると一概には言えません。専門の補修工事業者に依頼して、中性化の試験を実施する必要があります。その中性化を確認する試験方法に関しては第2章でご紹介します。
1-3.中性化が発生しやすい地域
中性化の発生しやすい環境について研究した論文「モルタルの中性化速度に及ぼす温度・湿度の影響に関する実験的研究(著者:鄭載東・平井和喜・三橋博三)」によると、中性化が発生しやすい地域の傾向として、
①全体的に日本列島の北ほど進行しにくく、南の地方ほど進行しやすい傾向にある。
②太平洋側の地方は日本海側より進みやすい。
③炭酸ガス濃度を一定と仮定しても大阪、東京、横浜などの大都市は、その周辺地域より格段に中性化の速度が早い傾向にある。
という結果がでているようです。
また、温度や湿度が高い地域、海から多く塩分が飛来する地域、融雪剤が散布される地域、においても中性化が発生しやすい、という傾向も出ています。ご自身のお住まいになっている地域が、上記の条件に該当するという方は注意が必要です。また、上記に該当しないという地域でも中性化が発生する可能性はあります。定期的に建物回りを見て、劣化症状が発生していないか、確認することをおすすめします。
参考文献:モルタルの中性化速度に及ぼす温度・湿度の影響に関する実験的研究
2.中性化の進行を測る方法
第2章では中性化の進行度、深さを測るための試験方法を2種類ご紹介します。この試験方法を用いることで、中性化がどのくらい進行しているのかを把握できます。
2-1.コアを抜き取る「コア法」
コア法は測定するコンクリート部分からドリルなどを用いてコアを抜き取り、中性化の進行度を計測する方法です。抜き取ったコアにフェノールフタレイン液を吹きかけ、色の変化を見て中性化を調べます。フェノールフタレイン液は、酸性又は中性の箇所は無色透明、アルカリ性の箇所は赤紫色に変化します。そのためこのコンクリート中性化を調べる場合には、抜き取った部分が無色のままの箇所の中性化が進行している、ということが言えます。
このコア法は後述するドリル法よりも、中性化の進行具合が一目で分かりやすいというメリットがあり、多くの施工業者がこの試験方法を用いているようです。
■コア法の手順
工程 | イメージ画像 | 解説 |
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コアを抜き取る | ドリルなどを用いて、コンクリートの壁、柱などからコアを抜き取ります。 | |
抜き取ったコアにフェノールフタレイン液をかける | 抜き取ったコアにフェノールフタレイン液をかけ、中性化の進行具合を見ていきます。
【色の判別方法】 |
2-2.穴を開ける「ドリル法」
画像出典:http://www.di-me.co.jp/technology08.html
ドリル法は、電動ドリルの削孔粉を用いる中性化の試験方法です。フェノールフタレイン液を吸収させた試験紙を下に置きながら電動ドリルで削孔粉を出すことで、中性化の進行度を調べる試験方法です。コア抜きの試験を行うよりも簡易的かつ、孔が小さいためコンクリートへの影響を軽減できるというメリットもあります。
■ドリル法の手順
工程 | イメージ画像 | 解説 |
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ろ紙に試験液の噴霧 | ろ紙に噴霧器具などを用いてフェノールフタレイン液を噴霧します。 | |
電動ドリルで削孔 | 試験液を吸収させた試験紙を、削孔粉が落下する位置に保持します。その後、コンクリート構造物の壁や柱などの側面を垂直に削孔していきます。 | |
ろ紙の色の変化の確認 | 落下した削孔粉が試験紙に触れて赤紫色に変色した才にすぐ削孔を停止します。 | |
中性化の深さを測定 | ノギスのデプスバーと本社の端部を用いて孔の深さをmm単位で小数点以下1桁まで測定し、中性化の深さを測ります。その後、孔が空いた部分にモルタルなどを充填し、修復し試験が完了です。 |
2-3.まずは業者に依頼して試験をしてもらおう!
第2章ではコンクリートの中性化を調べる試験方法として「コア法」と「ドリル法」の2種類をご紹介しました。コンクリートにひび割れや剥落などが発生していて中性化の進行具合や今後のメンテナンス時期が気になる、という方はまず、上記の試験を行なうことをおすすめします。とはいうものの、この試験はドリルの用意、フェノールフタレイン液の用意など行なう必要があり、ご自身で行うことが困難な試験です。
だからこそまずはコンクリートの補修や塗装を行なっている専門の業者の方に試験を依頼することをおすすめします。専門の業者の方であれば、正しい試験方法で中性化試験を行なってくれるだけではなく、建物全体の劣化状況の確認や、正しいメンテナンス方法を教えてくれるところもあります。また業者によっては、診断報告書も作成し、細かく説明してくれる業者もあります。建物に劣化が見られるという方はぜひ一度業者の方に建物の診断を依頼するようにしましょう。
■中性化の進行が確認されたら補修工事の必要あり
業者の方にコア法やドリル法という試験を依頼し、もし、中性化が進行しておらず建物に問題がない場合は抜き取った部分を塞ぎ、完了となります。中性化が進行していることが確認された場合、補修工事を行う必要があります。中性化の補修工事の方法については、第3章にて詳しくご紹介しますが、塗装工事やひび割れ補修など、劣化の状況・中性化の進行度によって異なります。業者の方に、コンクリート建物の中性化の進行度を聞いたうえで、どんな補修工事が最適なのか相談してみましょう。
3.中性化の補修方法
第3章では、中性化が進行しているコンクリートにおいて、中性化の進行を抑えるための補修方法をご紹介いたします。
中性化の進行段階①中性化の初期段階(あまり中性化が進行していない)②中性化の中期段階(鉄筋の近くまで進行している)③中性化の進行が深刻(鉄筋が腐食している)によって補修工事の方法が異なってきます。
3-1.表面を塗装する
表面を塗装する=中性化の要因を遮断する工事です。具体的には、中性化の要因である二酸化炭素や水、酸素がコンクリートに侵入するのを防ぐ工法です。中性化の進行が見られるものの、まだ鉄筋部分まで中性化が進行していない場合には、この表面を塗装する方法がオススメです。
表面の保護塗装はコンクリート表面に塗料を塗り、水や二酸化炭素などの劣化要因の侵入を遮断する工法です。一般的には、下地と上塗りとの密着性を高めるための下塗材を塗布し、その後、仕上りの色となる上塗材を塗布します。
コンクリート外壁用の塗料を選ぶポイントについては、下記の記事をぜひご覧ください。
3-2.ひび割れを補修する(ひび割れ注入工法)
画像出典:http://www.j-cma.jp/?cn=102639
コンクリートにひび割れが発生している場合、そのひび割れを介して水や二酸化炭素が鉄筋位置まで侵入してしまいます。そこで有効な工法がひび割れ注入工法です。低圧の注入器を用いて、セメント系、ポリマーセメント系の材料をひび割れ内部に注入する工法です。このひび割れ注入工法により水の浸入経路であるひび割れを閉塞させることができ、鉄筋の腐食を抑制できます。
一般的にひび割れを埋める作業には、コストのかからないひび割れ充填工法(Uカット工法)という工法が使われますが、ひび割れ注入工法の方が、ひび割れの閉塞効果が高いと言われています。劣化の状況に応じて、どちらの工法にするのか検討する必要があります。
3-3.コンクリートの断面を修復する
画像出典:プロタイムズ川西店
コンクリート中の鉄筋位置にまで中性化が進行し、鉄筋の腐食が開始してしまっている場合には、中性化してしまっているコンクリート自体を元のアルカリ性に戻す工法が用いられます。そのコンクリート自体のアルカリ性に戻すために用いられる方法としては、断面修復工法がよく用いられています。
断面修復工法は、コンクリート表面に浮きが生じたり、剥がれ落ちたり、鉄筋が露出している部分を、セメントなどの修復材で埋める工法のことを言います。部分的に修復する方法と建物の全面を修復する方法の2パターンがあります。部分的な修復工事は、中性化している部分を修復するだけのため安価で施工できますが、他の部分の中性化が進行している場合に、将来的に新たな鉄筋の腐食が進行する危険性がある、という危険性もあります。一方の全面修復工法は、全面を施工するため、中性化のリスクが低くなるというメリットがありますが、高額になってしまいます。
3-4.コンクリートに電流を流しアルカリ性に戻す(再アルカリ化工法)
コンクリートの再アルカリ化工法は、中性化により、中性化したコンクリートのアルカリ度を回復させることを目的とした工法で、コンクリートの表面にアルカリ性溶液と電極を仮設し、電流を2週間程度通電させることにより、アルカリ性溶液を電気浸透させる補修工事です。建物の一部を壊したり、一時的な通電で効果を発揮できるというメリットがある一方で、実績が少なく、処理後の長期耐久性が十分確認できていない、などのデメリットもあります。
3-5.中性化の補修方法と特徴まとめ
第3章の最後に、各補修の方法や中性化の進行度に合わせた最適な補修方法をご紹介します。
工事方法 | 工事の内容 | 工事のタイミング |
---|---|---|
表面の塗装 | 表面の保護塗装はコンクリート表面に塗料を塗り、水や二酸化炭素などの劣化要因の浸入を遮断する工法。 | ・中性化の初期段階(鉄筋部分まで中性化が進行していない場合)
・ひび割れの発生が見られる場合 |
ひび割れの補修 | コンクリートにひび割れが発生している場合、低圧の注入器を用いて、セメント系、ポリマーセメント系の材料をひび割れ内部に注入する工法。 | |
断面を修復する | コンクリート表面に浮きが生じたり、剥がれ落ちたり、鉄筋が露出している部分を、セメントなどの修復材で埋める工法。断面がアルカリ性を持つようになるため、中性化の進行を遅らせることができる。 | ・コンクリート中の鉄筋位置にまで中性化が進行し、鉄筋の腐食が開始してしまっている場合 |
コンクリートの再アルカリ化 | 中性化により、中性化したコンクリートのアルカリ度を回復させることを目的とした工法。 コンクリートの表面にアルカリ性溶液と電極を仮設し、電流を2週間程度通電させることにより、アルカリ性溶液を電気浸透させる。 |
以上の中で、比較的安価で中性化の進行を抑えることができるのは「表面の塗装工事」もしくは「ひび割れの補修工事」です。この2つの工事を行う段階であれば、中性化が初期段階のため、コンクリートや鉄筋への影響も大きくない状況です。中性化が進行してしまうと、大規模な工事が必要となり、その分工事に必要な費用も高くなってしまいます。
建物に異変がないか、定期的に建物の様子をチェックするようにしましょう。そして、少しでも異変を見つけたら施工の業者の方に連絡し、建物の様子を診断してもらうようにしましょう。
まとめ
今回はコンクリートの「中性化」のメカニズムや中性化が起きた際の外壁の見た目、対処法などを紹介しました。建物を長く使い続けるためにも、コンクリートの建物にお住まいの方は下記の点を実施するようにしましょう。
①ひび割れなどの劣化状況がないか、定期的に確認する
②少しでも劣化症状が発生している箇所があれば、業者の方に建物の調査を依頼する
③コンクリートの中性化の進行度や劣化の状況を聞き、最適な補修工事の方法を聞く
コンクリートの中性化は放置し進行すると鉄筋が腐食し、建物自体の耐久性が低下する、などの危険性が高まります。中性化の進行を防ぐために、そして建物を長く使い続けるためにも、定期的な建物のチェックや細かい補修工事は行うように心がけてください。中性化試験